海が教室 〜乗船実習を通して〜

海洋科3年 中野 慎

中野慎

 皆さんは水産高校のことをご存じですか。我が水産高校は長門市の仙崎という所にある県下に一つしかない水産の専門高校です。水産高校には、「遠泳大会」や「海の体育祭」など、様々な特色ある行事があります。また学習面でも他の高校にはない実習がありますその代表的なものが乗船実習です。乗船実習とは、実習船「青海丸」に乗って行う約3週間の長期実習のことです。この期間中、2年生では沖縄に、3年生では鹿児島に寄港し、その後東シナ海に出て漁獲労働や海洋観測などの実習をするのです。

 私もこの11月に初めて乗船実習を体験しました。ここに一枚の乗船実習感想文があります。これは実習の最後に私が「青海丸」に揺られながら船内で書いたものです。私達の実習がいったいどんなものであるのか知っていただくために、この感想文をそのまま紹介してみたいと思います。

 「ついに乗船実習が終わりを告げようとしている。あっという間にこの2週間が駆け抜けていった。11月9日、いろいろな思いを胸に仙崎を出港。わくわくしていた気分も、仙崎湾を出たらすぐに打ち砕かれた。それもそのはず、風力5である。待ってましたとばかりに「青海丸」は上下左右に暴れ出す。いきなりのダウンである。下関までベッドにうずくまり生き地獄を味わった。目を開けると下関漁港についていた。揺れは直ったが、まだ頭の中が回転している。11月10日午後、氷積みをして出港。いざ東シナ海へ。

 11月11日、そろそろ酔いにも慣れて最初の仕事、当直に入った。当直は2時間交代制だが、船が安全に航海できるようにずっと気を引き締めておくのは正直大変だった。

 11月13日、陸が見えた。沖縄だ。言葉にできないうれしさがあった。「青海丸」は安謝新港3号岸壁につけて、自由上陸となった。久しぶりに地に足をつけて単純に感動した。11月14日、沖縄市内の歴史資料館を回った。戦争の跡がはっきりと残されていて平和な時代の大切さを痛感させられた。

 11月15日、那覇出港。11月16日、漁場到着。トロール漁が開始され、実習のメインである漁獲労働─漁労がついに始まったトロール漁は、網を海に流し、時間をおいて巻き上げるというごく単純なものであるが、網の中には本当に様々な海産物が入ってくるこの日の漁労は別の班がやり、私は当直に入ってログブックの書き方を習った。ログブックには風向や風力、天候、針路温度などを書き込んで行く。

 11月17日、この日はやばかった。風力は6。頭がパニック。何度もトイレに駆け込む。船は縦揺れ。体に急激に圧力がかかり、船底に押しつぶされそうになったかと思うと次は足の裏から押し上げられる。早く言えば四六時中ジェットコースターに乗っているような最悪な感じ。

 11月19日、ついに漁労が入った。私達5班は第二甲板に集まり、合羽、ヘルメット長靴を身につけ、漁労に備えた。仕事の内容は魚を詰める氷の用意、トロールで漁獲された魚の簡単な仕分け、デッキの掃除などである。なかなか仕事がうまくいかず、漁業の大変さを身をもって経験した。

 11月21日、この日はとても運が良くなんと当直で長崎水産高校の実習船を見ることができた。あの船の中でも私達と同じように色々な経験をしている者たちがいると思うと、何か水産を通じての仲間意識のようなものを感じた。

 11月22日、久々の風力6。前にも一回経験しているので、どうにか酔うことなく持ちこたえた。

 11月23日、学習の時間にこの感想文を書いている。乗船実習もあと3日となった最後の3日間が大変貴重な3日間に感じられる。」

 ここまでこの感想文を読んでみて振り返ると、乗船実習からまだそんなに日が経っていないのですが、少し懐かしく思い出されます私はこの実習中、陸では感じられない船内の苦労や、楽しさ、厳しさを学ぶことができました。船酔いは確かにきつかったのですが、360度見渡して自分が乗っている船だけしか見えない海の壮大さを感じると、きついなんてことはすぐに忘れさせてもらえ、海の世界にますます心惹かれました。乗船実習を終えてからは、大学に進学して海のことをもっと深く知りたいという気持ちも、より一層強くなりました。

 正直なところ今の水産高校は、生徒数も減少し以前のような勢いがなくなっています。また、水産業自体も衰退し、色々な問題が山積みにされています。しかし私は、水産高校での毎日の学習を通して、日々、海のすばらしさを実感しています。とにかく一人でも多くの人にこの海のすばらしさを感じてもらいもっと海に興味を抱いてもらいたいと思っています。地球の全ての生物の母である海と私達人類がいつまでも共存していけることを心から願っています。



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